桐葉さんがどうして私に……?
彼は私の背中にそっと手を添えているだけで“抱きしめる”という訳ではない。と、しても……
何がどうしてどうなってこうなった? 酔ってるの?
あまりに突然すぎる出来事に瞬きをすっかり忘れて固まっていると、背中で桐葉さんが囁くように言う。
「俺も、お前を……棗を避けたくなかった」
耳を疑うような、桐葉さんらしくない台詞に思わずドキッとしてしまう。
この人がこんな事を言うなんて……
信じられない気持ちが半分、ドキドキしている謎の感情が半分で返事の言葉が浮かばない。
そんな私が“困っている”と察したのか、桐葉さんはスッと体を離し『突然驚かせてすまない』と険しい表情で軽く頭を下げた。
「酔っているんだろうな、俺は」
そう言いながら小さく溜め息を零すから、どうやら自覚はあるみたい。だからか急に背筋をビシッと正して《《いつもの》》桐葉さんに戻る。
「どんな理由にしろ仕事は仕事だ。これからは普通に接する」
いつもの“仕事モード”の彼に、私も黙って頷く。
だけど、やっぱり今日の彼は少し様子がおかしい。
「棗といると安心感があるからな。だからここ最近は酷く疲れてた」
最後の最後で気になるセリフを残し、彼は『煙草吸ってくる。気をつけて帰れ』と背を向けるから……
「待って《《桐葉》》さんっ」
今度は私が彼の左腕を掴みながら呼び止めてしまった。



