それと桐葉さんが言うように、ちょうど自転車が私の前を通過していく。
状況からして、たぶん水飛沫が飛ぶのを避けるために止めてくれたんだと思う。それにしても心臓に悪いけど……
「ありがとうございます……おかげで助かりました」
ひとまずお礼は伝えるが、桐葉さんは心底反省した様子で『怖い思いさせてすまない』とまた謝罪。
彼は私を止める為だけに追いかけてきたの? だけどスラックスの裾が泥水で汚れているところを見ると急いで来たように思えるし、そこまでするなんて桐葉さんらしくない。
なんとなく、“それだけ”って理由ではなさそうに思えた。
だから───
「何か……ありましたか?」
根拠も確証もない曖昧な聞き方しか出来なくて不審を抱いたかもしれないけど、私には“何かあった”としか思えなかった。
でも、そんな私の予想は案外当たっていた。
「さっきの話だけど」
さっき? と首を傾げる。
「避けられるのが嫌だって、そう言ったよな?」
「? はい……」
それがどうしたんだろ? と疑問が続く。
すると桐葉さん、突然───
「これはセクハラだって訴えないでくれ」
「えっ……!?」
驚くのも束の間。
桐葉さんにまた腕を掴まれ、今度は彼の方へと引き寄せられた。
そう。傍から見れば抱きしめているように、お互いが密着した状態。



