「あ、あぁ、悪い……ちゃんと聞いてる」
そう言うわりには返答の反応がイマイチ悪い。
そこまでおかしいこと言ったかな。
だんだんとこっちが恥ずかしくなり、もう帰ろうと『じゃぁ私はお先に……』と軽く会釈しながら桐葉さんに背を向け、タクシーを拾おうと大通りへと歩き出した。
街頭の灯りが水溜りを明るく照らし足元が見やすい。パンプスが汚れるのを回避したくて大きな水溜りを避けて通るように進む。
普段より行き交う車が多い気がするのは、雨だからかな。
乗車可能なタクシーを捕まえるため、少しだけ道路に身を乗り出して様子を伺おと一歩を踏み出した。……と、その時だ。
「ひやっ!!」
突然背後から現れた人物に腕を掴んで引っ張られ、思わず甲高く悲鳴に近い声を上げながら勢い良く振り返った。
「わ、悪いっ!」
「えっ 支配人!?」
誰かと思ったらいつの間にか後を追いかけてきていた桐葉さんだったよう。彼は慌てて掴む手を放し、『痴漢じゃない』と否定するように両手をパッと広げて見せた。
「ビッ、クリしたぁっ! 驚かさないでくださいよ! 変質者かと思ったじゃないですかっ」
「そ、そうだよな、本当にすまない。水溜りがあったし自転車が通ろうとしてたから、つい……」
そう言って視線を移す斜め先は、確かに他の路肩より水溜まっている面積が深く広い。



