『説教されるかと思いましたよ』なんて冗談まじりに悪戯に笑いながら私も鞄から財布を取り出すが、桐葉さんに『お詫びにここは俺が払う』とお金を出そうとする手を阻止された。
上司に奢って貰うなんて、それも桐葉さんがそんな気遣いしてくれるなんて意外で、ちょっと嬉しかったりする。
支払いを済ませた桐葉さんと一緒に外へ出ると、辺りは暗く雨が降ったようで地面に水溜りが出来ていた。
「中にいると全然気付かなかったけど、結構降ったんだ……」
「そうだな。今は止んでくれて良かった。今日は折り畳み傘も持ってきてないからな」
普段はしっかり傘も持ち歩いているんだなぁ。 なんて思わず感心。
さすが真面目な支配人。
「暗いし夜道は危ないから家まで送る」
「いえ、今日はここで大丈夫です。タクシー拾いますし」
「……そうか、わかった」
ん? 今なにか言いたそうな《《間》》があったように思えたけど……気のせい?
「今日は棗と話せて良かった。誤解も解けたし待ち伏せした甲斐があった」
「あ、はい」
やっぱり気のせいだったみたい。
柔らかい物腰で冗談交じりに言われ、『待ち伏せされたおかげで私も話せて良かったです』とついノッてしまう。
今日は本当、私も帰らなくて良かったと思う。桐葉さんが私を避けていた理由も知れたし。



