桐葉さんの前で涙を見せるなんて最初の頃は抵抗があったのに、不思議と今はあまり気にならない。
それくらい私もこの人に慣れたのかな。
差し出されたハンカチで涙を拭きながらふとそんな事を考えていると、桐葉さんはまた正面に顔を向けお酒を一口飲みながらこう言った。
「お前が階段から落ちた時、真昼の事が頭に浮かんで。コイツまで失ったらって考えたら、怖くなった……」
「えっ」
「縁起でもないのに。情けないな、俺は。だけどもうあんな思いは御免だ」
「支配人……」
俯き加減に苦笑する桐葉さんの横顔は、またとても哀しげに見える。
茉莉愛ちゃんの一件があった時、雨で濡れた階段から私は足を滑らせて転がり落ちた。
そのとき駆け付けてくれた桐葉さんは血相を変えていて、病院まで付き添ってくれる間もずっと強張った表情のままだった。
それが凄く印象的で頭から離れない。
きっとあの時、桐葉さんは私と真昼さんを重ねていたんだ。
フラッシュバック……だったのかもしれない。
「やっぱりこういう湿っぽい話をするのは苦手だ」
「すみません……辛い事を話させてしまって……」
桐葉さんは困った顔をしながらまたグビっとお酒を飲み干している。
こんなにペース早く飲む彼の姿は初めて。
それくらい今でも真昼さんの事───



