息抜きする憩いの場のはずが、これじゃ全然休めない……
「今日は何を飲みますか?」
いつものように注文を聞いてくるマスターに、「じゃぁサワーを……」と控えめに答える。
隣では相変わらず桐葉さんが無表情にお酒を飲んでいて何を考えているのか読めないし、何を話していいのかもわからない。こんな気まずいの、出逢った最初の頃を思い出す……
そんな独り言を考えながら注文していたお酒を一口喉へと流す。
ある程度飲んだら早めに帰ろう。と、密かに考えていたのに───
「ここに来ればお前と話せると思った」
「え……私……?」
「あぁ。だから待ってた」
「待っ!?」
突然の思いもよらない桐葉さんの発言に、声が裏返るほどの衝撃を受けた。
“待ってた”って言葉に不覚にもドキッとしてしまうなんて……彼にとっては深い意味なんてないのに。
それに───
「お前に大事な話があるんだ」
そう言われてしまえば早急に帰るなんて出来なくなる。
「なんでしょう……」
改めて『話がある』だなんてこの人が言う事ないから少し緊張するけど、どんな内容かは見当がつく。たぶんそれは《《彼女》》の件───
「杉森真夜の事なんだが……」
ほら、見事に的中。
言いづらいのか自身に気合いを入れる為か、お酒をグビっと一気飲みしたかと思えば突然……
「悪かった!!」
こちらに体を向け背筋をビシッと正し、深々と頭を下げながら謝罪。



