最後の恋って、なに?~Happy wedding?~


 ここに来る前に半分冗談に言っていた事がどうやら現実になったらしい。

 私が座ろうとしている席の2つ隣に腰掛けているお客は、何を気にする事もなく静かにお酒を嗜んでいる。
 そう、まったく気にする様子もなく……

「棗さま……?」

 なかなか席に座ろうとしない私にマスターが気にして声を掛けてくれるが、ここまで入ってきてしまって後に引けない気もするけど今は逃げる方を優先したい。

「あ、えっと……用事があったのを思い出したから帰ろうかな……と」
「え……」

 あまりに無理がありすぎる“よくある言い訳”に、マスターも少し驚いた様子で瞬きを数回。
 『また出直しますアハハ……』と苦笑いを浮かべながらカウンターに背を向けたけれど・・・

「どうして俺を見て逃げる。気にせず座ればいいだろ」

 どうやらバレていたらしく、その客の察しの早さに観念しながらもう一度クルリと振り返った。

「別に逃げている訳では……というか来ていたんですか支配人」
「俺がいるのをわかった上で帰ろうとしたんだろうが」

 あたかも《《今気付いた》》かのように何食わぬ顔して挨拶するが、そんな白々しい嘘が通用する相手じゃない事くらいわかっている。

「……すみません」

 だから素直に認めて謝るしかなかった。

 帰るに帰れなくなってしまい、半ば諦めていつもの席へと腰掛けた。