桐葉さんは不器用な人だ。
 言い方はキツくて目つきも悪い。それに加えて、一見冷酷さも感じられる雰囲気もあるから女子社員には怖がられているし。素直じゃないから本当に誤解を招くのが上手い。
 でもこういう時、困っていたら黙って助けてくれる。仕事はもちろん、そうじゃない時も。私をいつだって暗いところから連れ出してくれる。
 そう、この人と出会って私は何度も救ってもらった―――


「ありがとうございます、支配人。またご迷惑とご心配をお掛けしましたね。ですが今回は揉めていた訳じゃないので大丈夫ですよ」
「そうか……それならいいんだが……。余計な事をしてすまない」

 『邪魔して悪かった』と謝罪を口にする桐葉さんに、困っていたのも事実だと伝えると彼は少し安堵した表情を見せた。

「揉めてはいないが困っていたって、アイツと何があったんだ?」
「それは……」

 答えづらい部分に言及され、返答に躊躇し目線を外してしまった。
 
 なんとなくこの人に”元彼から告白された”って話をしたくなかった。言いたくなかった。
 どうしてだろ……? 桐葉さんには関係ないから? 彼には不必要な情報だから?
 本当にそれだけが理由……?

「言いたくないならいい。無理に聞こうとは思わないから」
「え……」

 私の様子に察してくれたのかもしれない。だからかそれ以上は聞いては来なかったけれど……

「引き留めて悪かった。今日はもう帰れ」

 そう言って背を向ける桐葉さんが、どこか遠くへ行ってしまいそうで私は少し寂しさを感じた―――