その日の夕方頃、私は茉莉愛ちゃんから貰っていた履歴書に記載されている住所に向かう。
 彼女の自宅(実家)は、会社から電車で30分の距離にあり、住宅街の中心部分に位置する二階建て一軒家。

 もちろん自宅に訪問するのはこれが初めて。そしてたぶん、これで最後だと思う。

 手入れの行き届いた庭の花壇。囲むように並ぶ石畳を進み、玄関前に辿り着いて深呼吸をしインターホンを押した。
 もしかしたら本人とは会えないかもしれない。
 その確率の方が高い気がしながらも返答を待っていると、少ししてインターホン越しに微かに女性の声で『はい……』と聞こえてきた。

「突然で失礼します。オルコス・ド・エフティヒアの棗と申します。茉莉愛さんはご在宅でしょうか」

 そう伝えるも、それ以上相手からの応答がない。もしかして聞こえなかった? それにさっきの声って……

 反応があるまでその場で少し待機していると、ガチャ……と控えめに玄関のドアが開いた。

「茉莉愛ちゃん……」

 そう。声の主は本人だったんだ───

 私が名前を呼んだからか彼女は小さく会釈し、外に出てきてくれたのでそのまま玄関先で話す事に。

 ***

「急に自宅まで来ちゃってごめんね?」
「……いえ」

 気まずさからか、彼女は俯き加減に私と目を合わせてくれない。