一緒に住んでるって言っていたし、今あのコは凪の家にいるのかな。
 私が気に掛ける必要はないんだけれど……

 ***

 今日の結婚式は午前10時からの1組だけだったから、披露宴が終わったのも早い時間。
 スタッフ達もそれぞれのフロアの後片付けを始めていて、私も掃除を手伝おうと《《あの》》大階段へと差し掛かる。が、自分自身に異変が起きた。

 それは、全身の震え。足がすくんで立っているのがやっとなくらい。
 今まで1度だって感じた事のなかった恐怖。階段の上に立つと下へと引っ張られて吸い込まれていくような感覚に陥る。それも凄く長い距離に思えて、目に見えているはずの着地点の距離感がわからない。

「……ッ」

 昨日の転がり落ちた事を思い出したとき視界がまわるあの感覚も一緒に記憶が呼び起こされ、足に力が入らず立っていられなくなり手すりをギュッと掴んで思わずその場にしゃがみこんだ。
 
 なんだろ……こんなの初めて。
 ただの日常生活で”怖い”なんて思うような危ない経験、私はまだした事がなかっただけに、これがフラッシュバックかと冷静に考えられるのに時間が掛かった。

「最悪……」

 手すりを掴んだまま目を閉じて溜め息が溢れる。
 こんな事でトラウマになっていたら仕事にもならないし困るだけなのに。情けない……