それがいけなかった。
「放してよっ!」
「わっ」
手を振り解かれ、その勢いで段差ギリギリに立っていた私のローヒールが角に引っ掛かってしまった。
グラリと揺れる視界。
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
響き渡る叫び声。
でもこれは私じゃない、茉莉愛ちゃんの声。
私は叫ぶ余裕も暇もなかった。
目の前にいたはずの茉莉愛ちゃんが視界から消え、持っていたはずの傘がどこかへ舞っていくのが見える。
掴むものを失った左手が空を仰ぎ、ただそれを見つめるだけで自分の上体が傾いていく事に抵抗出来ずにいた。
グルリと回転しながら感じる全身の痛み。雨で濡れて冷たいコンクリートに打ち付けられているのが頭でわかっているのに、止める術が見つからない。
せめて頭だけは守らなきゃ……
そう思うのに受け身が取れず、私は瞬く間に大階段の1番下まで落下していた。
やっと止まった……
随分な高さから落ちたって言うのに意識がしっかりあるのは自分でも驚いた。良かった、死んでなくて……
「……ッ痛」
起き上がろうと身動ぐと体中に激痛が走り、思わず躊躇してその場で停止。それに加え、冷たい雨でずぶ濡れになってしまい、水を含んだスーツも重たく冷えて凄く寒い。幸いにも頭は数回ぶつけたけれど今のところ支障はきたしていない。
人生で階段から転げ落ちる事があるなんて……



