本来ならここで私も『浮気してフッてんだから、いい気味だよ』くらいの文句の1つも言っていいのかもしれないけれど……
「私は別に大丈夫だよ」
言えなかった。
情けないのは私の方だ。強くも責められないんだから。それどころか……
「でも凪は……」
こんな事を聴いて複雑な気持ちになるのは私自身なのに。
「彼女の事が好きなんでしょ?」
その答えを聴く勇気なんて、ないはずなのに。
「それは……」
暗い表情で床に視線を落としながら言葉を詰まらせる凪に、私は何かを期待してしまっていた。
もしかしてもうそんな気持ちがないんじゃないかって、どうしてそんな風に考えてしまったんだろう……
「凪……茉莉愛ちゃんとはもう―――」
最後まで言い終わる前に出勤時間で数人のスタッフが続々と事務所に入室してきて、それを阻止させられてしまった。
そこで私もハッと目が覚めた。
なぜ今私は、彼に『別れた方がいいと思う』って言おうとしたんだろうって。なんてことを……
『別れろ』だなんて言える権利はないはず。
「瑠歌?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
「なんでもないって……」
「ちゃんと話合ってねって言おうとしただけだから」
何を言おうとしたのか凪自身も気になったらしく不思議そうに首を傾げてこちらを見つめるが、これ以上掘り返されたくなくて咄嗟に嘘をついた。



