険悪な修羅場の中、凪の腕を振り切って茉莉愛ちゃんは走ってこの場から立ち去ってしまい、残された彼の呆然と立ちすくむその後ろ姿に私は『凪……』と声を掛けていた。
「瑠歌……?」
私がここにいた事と思いがけなく声を掛けられた事への驚きからか、振り返ったその表情は険しく戸惑っている。
「なんだ……まだ仕事してたんだな」
「凪こそ……いるとは思わなかった」
どう言ったらいいかわからなくて、さっき見た出来事には触れずに当たり障りない返しをしたけれど、凪は察していて。
「見てたよな、茉莉愛とのやり取り」
気まずそうな顔をしながら、自ら《《そこ》》に触れてきた。
質問されれば答えないのは変だし、迷った挙げ句私は『うん……』と素直に頷いた。
すると彼は目を閉じ深く溜め息を吐いて、意を決したように言う。
「俺は……瑠歌じゃなくて、アイツを信じた」
「うん……」
「でも、間違いだった」
俯き加減で歯を食いしばり、怒りを耐えるようにしてグッと拳を握りしめている。
「最近、どうも様子がおかしいとは思ってた。打ち合わせとか言いながら、お客様からの連絡は男ばかりでコソコソ出ていくように家を抜け出して。その頻度も凄く多くて複数いるみたいだし。そしてさっきはここで男の車から降りてきた姿を見たから」
「凪……」
「それで気づいた。茉莉愛は、いろんな相手と浮気してるって」



