ほんの5分ほど前に、先に桐葉さんが仕事を終え入口で待っているため私も鞄を手に後を追う。

 彼と合流する前に、正門付近で人の気配を感じた。


「だからどういう事かちゃんと説明しろって言ってるんだ!」
「うるさいな! あなたには関係ないじゃん!」

 近くまで進むに連れ、聞こえてきたのは男女の揉める声。
 どうやら正門玄関の壁を隔てたすぐ先で言い争っているよう。


 何事? まさか喧嘩? よりによって神聖な結婚式場(ここ)でやめてほしいんだけど……

 縁起でもないなぁ……なんて呆れながらも、その声を無視して桐葉さんを捜していたのに。
 耳に届く揉める声とその内容に、私は足を止めざる得なかった。

「待てよっ、茉莉愛!」

 そうーーー
 それは明らかに『茉莉愛』と《《彼女》》を呼ぶ凪の声だったから。

 声の主を知ってしまった以上このまま無視するなんて出来なくなった私は、2人に気づかれないよう正門の陰に身を隠しながらその様子を伺った。

「まだ話を終わってないだろ!?」
「離してよっ! 凪くんにこれ以上話す事なんてないよっ」

 薄暗く微かに照らす街頭の下、私が見たのはその場から逃げるように歩きだそうとする茉莉愛ちゃんと、その腕を掴む凪の姿。

 やっぱり彼等だったーーー


 もうとっくに2人仲良く愛の巣に帰っているものだと思っていたのに、どうしてこんなところで……それも喧嘩しているの?