最初の頃と違い、桐葉さんと他愛もない雑談が出来るようになった気がする。無愛想な人だけど、最近はほんの少しだけ柔らかくなったようにも思えるし。だから私も話しやすくなって冗談まで言えるようになって。なんか不思議な感じ。

「棗、今日はもう帰れるか?」
「はい。ちょうど今キリが良いところまで終わったので」
「そうか。じゃぁ今晩、俺と飲みに付き合え」
「へっ・・・?」

 まさか《《また》》飲みに誘われるとは思ってもみなかった。そんな気軽に飲める仲にまでなるなんて……

「なんだ、嫌なら別にいいんだが」

 すぐに返事をしなかったからか、それとも嫌な顔をしているように見えたのか、迷惑に捉えたらしく仏頂面でバツが悪そうにすぐ取り消されてしまった。

「全然嫌じゃないですよ。ただちょっと驚いただけで……」
「どうして驚く?」
「・・・いえ、なんでも」

 『何を考えているんですか。また説教ですか』なんて失礼な事を聞くわけにもね。

 目を逸しながら中途半端に答えるのをやめてしまったのが腑に落ちなかったのか、訝しげな顔をする桐葉さんにマズイと感じ、私はすぐに『行きます!』と誘いを受けた。

 仕事が片付いたのは、それから10分後。パソコンに入力していたデータを印刷しファイリングすると、後片付けを済ませて誰もいなくなった事務所の電気を消灯。