それからしばらくは茉莉愛ちゃんに怪しい行動もなく、凪との関係も変わった様子は見受けられなかった。
 それはあくまで《《私から見たら》》……だけど。でも同じように思った人物がもう1人。

「どうやらあの女の所業は落ち着いたみたいだな。クレームもなくなったし」

 平日20:00 パソコン作業をしていた私の席の横に来て『人騒がせな奴だ』と溜め息を吐いたのは、支配人の桐葉さん。
 作業の手を止めて軽く顔を上げてチラリと彼の表情を見ると、疲れ切っているのかゲッソリとしていて少し更けたようにも思える。

「そうだといいんですけどねぇ。支配人もお疲れ様です。色々と対処して頂いて」
「まったくな。こんなのはもう勘弁だ」

 この件に桐葉さんは個人的に関わりたくななかっただろうけど、実際に”男性にだけ特別視してる”とのお客様からのクレームもあったりした為に、その対応に追われて厄介ごとに巻き込まれてしまった。彼はある意味で可哀想な被害者の1人だ。

「本人はいい気なものだ。注意したって『私は悪い事はしていません。向こうが勝手に好きになってくるんです』って開き直ってるし」
「彼女、そんなこと言ったんですか。凄い強気。でも羨ましい」

 『私も言ってみたいや』って悪戯に笑ってみせると、桐葉さんは本気にしたらしく困った顔をしながら『それだけはやめてくれて』と嘆いていた。