これは……事故だ―――
「セーフ……危なかった」
「ご、ごめんっ」
すぐ頭の上で聞こえる凪の声に一瞬ドキッとしながらも、ハッと慌てて急いで体を離そうと手すりに腕を伸ばして体制を立て直す。
「こっちこそごめん。急に引っ張ったりしたから、驚かせた」
「ううん、平気……」
ドキドキしているのは落ちそうになったから。……だけじゃないなんて認めたくない。
「えっと……私、仕事に戻らなきゃだから」
「あ、うん……」
凪と目を合わす事が出来ずに床に向かって喋り、彼に背を向けて振り返る事もなく今度こそ階段を昇っていく。それも少し駆け足で――
顔が熱い……。どうして元カレ相手にこんなに戸惑っているのか、私自身もよくわかっていなくて。なのに心拍数が速いまま変わらない。
こればかりは理由がどうであれ正直なところ。
それに……悔しいけど抱きしめられた時に久しぶりの凪の香りを感じて、付き合っていた時の記憶を思い出してしまった。
こんなのって……ないよ――――
***
階段から式場に戻るも、気持ちを仕事モードに切り替えられないまま火照った顔の熱を冷ますように手で扇いで、水でも飲んで落ち着こうと足早に事務所に向かう。
すると事務所に通じる入り口で、バッタリ桐葉さんに出くわしてしまった。



