「昨晩、桐葉さんが私を心配して連絡をくださったんです。それがとても嬉しくて……気持ちが落ち着きました」
え、なに言ってんの? まさかそんな理由で吹っ切れて出勤したんじゃ……
なぜか伏し目がちに照れた様子の彼女に唖然とするも、この子は気にするはずもなく平然と続ける。
「お客様に誤解を与えてしまった事はいけなかったと思っています。距離が近すぎてしまったんですよね……」
シュン……と、しおらしく急に自分の非を改めて反省する茉莉愛ちゃんに、開いた口が開かない。
気が変わった理由は、これも桐葉さんのおかげ? だとしたら彼はどうやって説得したの。
唖然としたきり何も反応出来ないまま立ちすくむ私に、彼女は笑顔で『今日からまた宜しくお願いします』と会釈をし、何事もなかったように自分のデスクに戻っていってしまった。
ちょうどそのタイミングで桐葉さんが出社したのが視界に入り、自席に着いたと同時に私は彼の元へと駆け寄って小声で耳打ちをする。
「何を言ったんですかっ」
「は?」
逸る気持ちが落ち着かないまま聞きたい事もまとまっていないせいか、朝の挨拶をすっ飛ばし主語もなく単刀直入に質問すると、彼は『いきなりなんだ』と怪訝な表情を浮かべる。
「昨日、茉莉愛ちゃんに何を言ったんですかっ」
私はもう一度、今度はほんの少し言葉を付け加えてまた質問した。



