誘惑って……えっ、誰が誰にって……?
「絶対そう! 間違いないんですっ!」
「ちょ、ちょっと待ってください。順を追って詳しく話を聞きますので、まずは落ち着いてください」
1番焦っているのは、むしろ私の方だと思う。
ハンカチで涙を拭う新婦を落ち着かせながら、自分自身にも『まずはちゃんと話を聞く』と逸る気持ちを静めて椅子に腰掛けた。
「誘惑……というのは、うちの桜林が貴女の御主人にって事……ですか?」
「はい……。怪しいと思ったのは、ここ1ヶ月くらいからなんです」
彼女は泣くのを堪えながら、ポツポツと話始めた―――
「打ち合わせを始めたばかりの頃は全然気にならなかったんです。それどころか、あの方は優しくて丁寧なのでとても良い人だなって好印象だったんです」
初めこそ普通だったけれど『ところが……』と本題に入ると口が重くなり、ハンカチをギュッと握りしめながら口調が強くなる。
「いつも休日に2人で打ち合わせに行くのに、ここのところ彼だけが呼ばれて平日もここに来る回数が増えていっているんです。それも私の知らない間に」
「連絡はいつもご主人が直接やりとりを?」
「はい……。私は彼から次の日程を聞いて同行していました。なのに最近は何も言わず、コソコソするみたいに出掛けているんです」
そうですか……と、どう返事をすべきか考えてしまった。



