意味を含めて『ふふ……』と薄ら笑いをするも、桐葉さんは自分が何を言ったのか身に覚えがないらしく、全然わかっていない様子で小首を傾けている。
 無意識ほど相手にダメージを与えるものか。

「まぁとにかく……支配人には感謝しています。いろいろとありがとうございました」
「どうして棗に礼を言われるんだ? 俺は何もしていないだろ」
「いえ。私にとっては助かりましたので」

 改めてお礼を伝えても、話が見えない彼からしてみたら『何言ってんだ』くらいにしか思っていないだろう。

 それでも……今晩は桐葉さんがいてくれて良かったなって思ってる。
 茉莉愛ちゃんにあれだけ言われて嫌な気分になっていたけれど、あの場から逃がしてもらえたし独りじゃなかったから……――

「あー、そうだ」

 桐葉さんは頬杖から顔を離し、何かを思い出したように私の方を向くから今度は私が首を傾げて目を合わせた。

「誕生日」
「へ?」
「おめでとう」

 初めて見た彼の微笑みは、軽く骨格を上げてそれはとても優しく穏やかだった。
 どうして私にそんな顔を見せたんだろう……と考えながら、不覚にもドキっとしてしまった――――

 その後、タクシーは私の自宅の前で停まり桐葉さんに再びお礼を伝えて別れると、彼を乗せたタクシーは来た道を戻っていった。

「はぁ……」

 真っ暗な玄関先で独り、明日を考えると気が重くなって溜め息が零れる。
 
 どんな顔して茉莉愛ちゃんに会ったらいいんだろう。
 それに凪も……――――