”桐葉さんは意外と優しく思いやりがある”なんて思っていたけれど、今日の彼はいつもと絶対違う。
 別の意味で気持ち悪いくらいに優しすぎて、それがなぜなのかどうしても気になってしまった。

「支配人……今日急に出席する事にしたのって、何か気持ちの変化でもあったんです?」
「……特にはない」

 前を向いたまま答えてくれたけれど、その一瞬の《《間》》があった事に違和感を覚えた。

「じゃぁ……気まぐれ、ですか……」

 少しイジワルに更に掘り下げてみたけれど、この手の質問は嫌だったのか彼は窓際に肘を掛け、頬杖をついて外を眺めるようにして今度は黙ってしまった。
 まぁ言いたくなければ別にいいんだけど……。

 借りたジャケットを身体に掛けさせてもらい私も窓際に寄り掛かりながら同じように遠くを眺めていると、隣に座る桐葉さんの声が聞こえてきた。

「お前が……気になってな」

 聞き間違い? そう思いながら彼の方に顔を向けたけど、本人はこちらに視線を移す事なく続ける。

「昨晩も遅かったし、ほとんど寝てなかっただろ。今日だって式が2つあって忙しかったのに、自分のために開いてくれたっていう飲み会に参加するって……それが心配になってな」
「私のため……だったんですか」
「俺は一応お前の上司だし、部下に何かあったら責任があるから」

 意外な返事だった。