凪の愕然とした表情とニヤニヤと意味ありげに面白がる仁菜に手を振られながら、鞄を持って行かれてしまった私は彼の後を追うしかなくなってしまった。
 一瞬、茉莉愛ちゃんと目が合った気もしながら―――――

 ***

「ま、待ってください支配人っ」

 ズカズカと店を出ていく桐葉さんに何がどうなってこうなったのか困惑しながらも、未だ鞄を返してもらえず慌ててついて行く私。

 半強引にこの人と帰る事になったけど……予想外の出来事に酔いも覚めそうな勢いだ。

 店の外に出ると雨は上がっていて蒸し暑さもなく、それどころか少し肌寒く感じる。ううん、むしろ身震いするくらいの寒さに、カーディガンを羽織っていても両腕を抱えてしまう。
 お酒のせいで冷えたのかな。

「ほら、これ着てろ」
「あ……ありがとうございます」

 バサっと背中に掛けてくれたのは、彼が着ていたスーツのジャケット。普段は冷たい感じに見える人だけど、さっきも、それに今だってさりげない優しさに助けられている。
 言葉数が少ないからわかりづらいし相手にも伝わりづらいだろうけど、桐葉さんは意外と思いやりのある人だって最近思う―――


 時間はもう深夜近くになっていて、外は真っ暗。
 車の通りも、(ここ)に来る前より多くはなくなっていた。