それを聞いていた桐葉さんは『ほう……』と意味ありげに私を見下ろしてくる。
「なんですか……文句あります?」
「―――いや?」
絶対嘘。何かしら説教したいって思っているのが、彼の呆れた表情と小さく漏れた溜め息でわかる。
それに彼の事だ。『寝不足で酒を飲んで明日の仕事に響いたらどうするつもりだ』とでも言い兼ねない。
説教を覚悟の上で私は無言でまた歩きだした、のに―――
「具合が悪いなら帰るぞ」
「は?」
「荷物を持ってこい」
「え、ちょ……ッ」
すれ違いざまに二の腕を掴まれて引き戻され、抵抗しようと彼の方を振り返った瞬間、ぐらりと目の前が歪む。
「っと、危ない」
身体のバランスを崩して床に倒れ込む前に咄嗟に桐葉さんが片腕で受け止めてくれて、間一髪、痛い目に遭わずに済んだ。
「ぎも゛ぢわるい゛……」
お酒か眩暈なのか、それとも桐葉さんが話し掛けてきたせいか……まぁそれは冗談としても、頭は痛いし本格的に具合が悪くなってきたのは確か。彼の言う通り、もう帰った方が良さそうな気がする。
「まともに歩けないくらいフラフラだとは想定外だが、俺が居て良かったな」
右腕に支えてもらいながら頭上から聞こえる『有難く思え』の嫌味に、言い返したくても図星で反論も出来ずに大人しく沈黙を通した。



