「気持ちは有難いが、まだ仕事が残っているから俺はパスする。また別の機会にしてくれ」
攻防戦は続くも桐葉さんは頑なに断り続け、ひと段落していたかのように思えていた仕事を再開。またパソコンに向かって作業を始めてしまい終わる気配が感じられない。
さすがにこうなると難しいかなと、仁菜に諦めるよう説得しようと口を開こうとした―――が。
「今日、瑠歌の誕生日なんですよ! 同じスタッフのメンバーなんですし、支配人もお祝いしてくれませんか!?」
ストップを掛けるより早く、まるで最後の切り札みたいに私の誕生日を《《出し》》に使ってきた。
「ちょっ、それはっ!」
「そうなのか? 棗」
桐葉さんは初耳だったらしく私とは別の意味で驚いた顔をし、キーボードを打つ手を止めて画面からこちらに視線を移し首を傾げている。
「えぇ……まぁ……」
素直に答えるしかなくなって、仕方なしに苦々しく笑顔を作りながら返事をした。
別に秘密にしていた訳ではないけれど、わざわざプライベートを話すほどでもないと思って黙っていたのに。
それに桐葉さんに伝えたところで、そんな理由で彼が来るとは思わーーー
「わかった。出席する」
「えっ…」
思わ……なかったのに。
さっきまで絶対的に拒否していたのに、表情1つ変えずにパソコンを閉じて後片付けを始めているではないか。



