『よしっ』と気持ちを引き締め直して私も準備に取り掛かり、7時をまわる頃にはスタッフ全員が集まって各自の最終チェックに入っていく。
茉莉愛ちゃんも、そして凪の姿も……2人は相変わらず仲良さげに朝から笑顔が眩しい。
あと1時間もしたら主役の新郎新婦が到着する。30分ほど前には桐葉さんも出社し、数時間ぶりに顔を合わせる事に――――
「棗、ちょっといいか?」
自分のデスクに戻るとちょうど鉢合わせる形で桐葉さんに呼び止められ、事務所を出て人気のいない廊下の隅へと彼を追って移動する。
「今朝は早くに家を出たんだな」
「すみません、黙って勝手に……」
怒っているのか困っているのか桐葉さんの表情からは感情が読み取れず、怒られる事を覚悟しながら謝る事を優先してみたけれど、どうやらそうじゃないらしい。
「いや、忘れ物を返しそびれたから」
まわりの目を気にしつつ小声でそう言いながら、彼がポケットから取り出したのは私が昨晩までつけていたネックレス。
「あ……置いていっちゃったんだ」
「洗面所に落ちてた。探していただろ?」
「え、あ、はい……」
正直忘れていた。上司の家に泊まってる現実に、余計な事ばかり考えていたおかげでそんな事―――
「少しは眠れたのか?」
「はい、十分に。泊めてくださってありがとうございました」
ネックレスを受け取りながら、平静を装って嘘をついた。