なんか変な感じ。ド深夜に上司の家でテーブル囲んで珈琲を飲んでいるなんて―――
音楽もなく静かすぎる空間に2人きりは何とも居た堪れない。本人からは全然そんな様子を感じられないけど、おかげでこっちは眠気も吹っ飛ぶ。
そもそも今は何待ちなの?
「あ、あの……」
「風呂」
「?」
「もう少しで入れるから」
「……はあ」
なぜ考えてる事が伝わったのだろう。まだ何も聞いていないのに、先回りされるとは。
気を取り直して別の話題を振ってみる事に。
「支配人って、こんな立派な部屋に住んでいるんですね。ビックリしましたよ」
「別に普通だろ」
は? 全然普通じゃないから。桐葉さんの基準がわかんないって。
金持ちの感覚に若干ついていけず、自分の凡人さを痛感しながら私は彼に《《悪い》》質問を投げかけた。
「これだけ広い部屋なら元カノさんも驚いたでしょうね」
支配人クラスにもなると当たり前なんだろうと、もう本当にただの嫌味だ。
そんな私の言い方は喧嘩を売るようなもの。彼は珈琲を飲もうとする手を止めジロリとこちらに睨みを飛ばしながら、低い声で『は?』と返してきた。
あー……やっぱり言いすぎたか。
揉めて今更追い出されたらマズいので『すみません……』とひとまず謝罪すると、彼は再び珈琲を口にしながら一言付け加えた。
「部屋には誰も入れた事がない」



