最後の恋って、なに?~Happy wedding?~


 何階建てだろうか。ううん、何十階? とにかく見上げないと全体が見えないくらいには高さがある。
 支配人って立場になるとどういう所に住んでいるのかは疑問に思っていたけれど、まさかここまでとは……

「おい何してんだ。早く入れ」
「あ、はいっ」

 空を仰ぎながら口を半分開けて呆気に取られている間に、桐葉さんはいつの間にやら自動ドアの前まで移動しているではないか。
 
 緊張感の欠片もない人だなぁ……。まぁそれもそうか。彼にとってはあくまで《《寝床を貸すだけ》》なんだから。こっちはそう簡単に割り切れないんだけどさ……

 どんどんと心拍数が上がりながらゴクリと生唾を呑み込んで、桐葉さんから少し距離を空けて斜め後ろからついて一緒にエントランスへと入っていくと、彼はオートロックを解除しそのまま右手にあるエレベーターの前で立ち止まった。
 表示灯のランプは”30階”になっていて、ようやくこのマンションが何階建てなのかがわかる。

「部屋って……何階なんです?」
「15だ」

 聞いてみたものの、『なるほど! 真ん中の階なんですね~』などと明るい返しが出来るほどの気持ちの余裕なんてなくて、さらに緊張が増すばかり。

 無音・無言の庫内で2人きり。途中誰かと乗り合わせる事もなく、エレベーターは15階で静かに停止した。