あぁ……きっと桐葉さんは観察力に長けているんだ。そういう事にしておくのが1番いいな。
「営業職なのに名刺入れがないのは良くないからな。もう二度と落として失くすなよ」
「はい……気を付けます」
上司である桐葉さんからプレゼントをされるなんて、それもまた意外すぎて何事かと勘ぐって考えてしまうけど、本人はそんな私に違和感も持たず至って平然としている。
優しい目と注意する口ぶりが、なんだかまるで”兄”みたい。
「それで? このまま本当にここで朝を迎えるつもりか?」
「えぇ、まぁ……」
「そうか……」
お互い作業をしつつ、謎の沈黙が流れる。なんだろ、この《《間》》。
桐葉さんはどうやらまだ帰らないらしくパソコンで作業を続けていて、私の方は後片付けも終わって、この後の仮眠が出来る方法を考えていた。
―――と、彼の方に目を向けると桐葉さんもパソコンの画面から目を離し、私の方に顔を向けて言う。
「俺の家に来るか?」
そう、耳を疑うとはまさにこういう事だ。
「は・・・はいっ!?」
あまりの衝撃発言に驚きが大きすぎて、声が裏返ってしまう。だってこれは……間違いなく、誘われてる―――?
「シャワーも困るだろ。スーツも皺に―――」
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
全部は聞いていられなくなって、慌てて口を挟んで遮った。



