もう全員退勤したかと思っていたけれど、なぜか彼の姿がここに……
「なんだ、まだ残っていたのか」
「支配人こそ……どうして……」
「取引先との打ち合わせが長引いてな。今終わって帰ってきたんだ」
言いながら彼はビジネスバッグを自分のデスクの上で開け始める。
「直帰……しなかったんですか?」
「あぁ。明日の最終確認もしたかったからな」
その言葉を聞いた私は内心ホッとし、緊張で強張っていた全身から少しずつ力が抜けて椅子にストンと腰を落としてしまった。
そんな私の様子に違和感を感じたのか、桐葉さんはこちらを見ながら急に顔つきが険しくなる。
「どうした? 青白い顔をしているが」
「良かった……支配人がいてくれて……」
瞬きも忘れて、ボーっとしながら口走ったのは本音。事情はまだ彼に何も説明していないし何も手を付けてもいないのに、なんかよくわからないけど凄い安心感。
「お、おい……どうした? 平気か?」
今の私が変だとでも思ったのか、困惑したようにこちらへ近づいてくる桐葉さんに『平気です』と深呼吸をしつつ、さっき連絡があった内容を説明をした。
「それはまずいな」
また真剣な表情へと変わる桐葉さんは、腕を組みながら手を顎に当てて何かを考えている。
「さすがにこのままってわけにはいかない。今からすぐに修正に入るぞ」
やっぱりさすが仕事が出来る人だ。こういう時、本当に頼もしい。



