この式場は営業時間が20時までで、平日のこの時間に掛かってくるのは予約の取り付けが多かったりする。
だからこれもたぶんその1つかなと、軽く考えながら受話器を上げた。
「はい、オルコス・ド・エフティヒア、棗が承ります」
作業の手を止め誰もいなくなった事務所の電話に出た私は、相手から『佐藤です』と名乗られて、すぐに明日朝一の式の新郎だと気が付いた。
「佐藤様、今日は最終打ち合わせお疲れ様でした」
丁寧に挨拶をし相手側の話を聞こうとしたけれど、どうも新郎の様子がおかしい。
『あ、あの今更気付いた事があったんですが、どうしたらいいのかわからなくて……』
心配事か、慌てているような焦っているようで声が震えている。それでなんとなく、『何かあったんだな』と直感した。
こういう時の新郎新婦からの電話は、大概トラブルが多いしその内容はだいたいがご自身達の事。彼の声の様子だと、何かミスが見つかったのかもしれないとこちらも覚悟する。
「いかがなさいましたか?」
そうは言っても冷静に穏やかな声と話し方を意識しつつ『落ち着いて話してください』と伝えると、新郎は息を弾ませながら声を張った。
『ぼ、僕の会社の上司の肩書をっ 間違えていました!!』
「えっ……」
想像していた以上の悪い内容に、思わず本音として驚いた声が漏れてしまった。



