数日後から、なんとかハローワークに通い次の就職先を探した。
三週間がたったころ、変化は起こった。


「う、うぇっ……」


寝起きでトイレに駆け込むと、便器に向かって吐しゃ物を滝のように出した。
寝起きからどうも吐き気が収まらない。

ハローワークに行きたくて無理やり支度をしたが、出かける直前にも吐いてしまった。
眠いし、怠いし、胃がムカムカしている。
悪いものでも食べたのかとその日は出かけるのを断念したが、次の日もその次の日も吐き気が収まらなかった。


「……も、もしか、して……」


心当たりと、予感があった。
胸も張っているし、ずっと体温が高い。

急いで薬局へ行き検査薬を試すと、予想どおり陽性だった。
判定結果がでる窓に、くっきりと妊娠を証明するラインが出ている。

急いで病院へ行き検査をすると、「おめでとうございます」と言われ、お腹の中を撮影した写真をもらった。


「――――あ、赤ちゃんがいるんだ……」


それがわかった途端、お腹を抱きしめた。
思い当たる相手はただ一人、志波音夜だった。
連絡をとるべき? 

あの日の行為で子供ができました。責任をとってください。そんな風に言うのか。

あの夜の責任は自分にある。

若くて才能のある人の人生の選択肢を、つぶしてしまうのではないかという不安が襲った。
恋人がいたら破局させてしまうかもしれない。

あの日の音夜は、すがる美夜に応えてくれただけで、遊びだったはずだ。
喜んで、結婚しようと言ってもらえるような仲ではなかった。

責任をとると言われても、認知すると言われても申し訳なさで自分が辛くなる気がした。


――――――――それに、堕ろせと言われたら、どうしたらいい?


(――――――――だめ!!)


一瞬考えた選択肢に、思い切りかぶりを振った。
無理だ。だってもう可愛い。お腹で生きてる。

エコーでみた命は、まだ豆粒だった。
けれどもう生きていて、とくとくと動く小さな心臓を見てしまった。
その瞬間、泣きたくなるほどの喜びに包まれた。

人間としての形さえまだ出来上がっていないのに、なんて可愛いのだろうと胸が熱くなった。


赤ちゃん。守りたい。育てたい。

――――この手に抱きたい。


でも、現実問題どうやって一人で育てるの?
職がない。妊娠発覚後に採用してくれる会社なんてあるのだろうか。

しかも解雇された人間だ。
どうしようどうしようと頭の中がから回る。
その時、スマホにメールがくる。転職情報サイトからだった。


『子育て中の方大歓迎! 寮完備。保育施設完備。シフト優遇します』


美夜はすがるような気持ちで、添付されたアドレスにアクセスした。