スクリーンに向かって左側にある三つのテーブルでは、子供にプリントが渡され、簡単な計算や時計の読み方、積み重なったブロックがいくつあるかなどの問題を、五歳前後の子供たちが鉛筆を握って頑張って解いている。

手が止まってしまった子には職員が声を掛け、ヒントを与えながら学習するという、よく見かける幼児教室の様子だった。

保護者はテーブルの後ろから子供の様子を見ながら、別の社員から話を聞いたり、理想の教育についてヒアリングを受けている。

一方、右側にあるテーブルにはプリントはなく、図鑑やぬいぐるみ、積み木や画用紙など、自由に遊べるスペースのようになっていて、三つのテーブルのうちひとつには職員の配置もない。

こちらには二、三歳の小さな子がパラパラといるだけで空席が目立っていた。

私が全体を見回していると、スクリーンの脇に怜士の姿があった。

幼児向け教室だからか朝見たスーツ姿ではなく、黒いスタッフTシャツを着ている。

手にした書類を見ながら周りの社員に指示を出している怜士は遠目から見ても格好良く、初めて見る仕事をしている姿に胸がときめいた。

これが、今怜士が日々一生懸命作り上げようとしているものの第一歩。しっかり目に焼き付けておこうと、会場全体を見回す。

忙しそうにしているから、声を掛けるのはもう少し後のほうがいいかな。

そう思って机に向かっている子どもたちに視線を戻すと、コツコツとその場にそぐわないヒールの音が響いた。