「お疲れ様、皐月さん」

「……大の字になりながら言うセリフなの、それ???」


ピキピキと音が聞こえてきそうな程に眉の間を曇らせた皐月さん。
そして、そのまましゃがみ込むから急に皐月さんとの距離が近くなる。

……と、思ったとき。


「ぅわあっ!?」


皐月さんの腕が、方と両膝の後ろにまわされて。
そのまま抱きかかえられて、ふわっと体が浮いた。

お、お、

お姫様だっこだ……!?


「だ、あ、皐月さ……!?」

「そんなとこいられちゃ困るから、一緒にリビング行きましょうねカノチャン」


足で乱暴にドアを閉める皐月さん。

待って。
待って。

まだ雪杜くんにもしてもらったことないのに!!!!


初めてを皐月さんにこうもあっさりと奪われてしまったことに対する悔しさがこみ上げる。
……し、咄嗟のことで皐月さんにしがみついてしまった自分を殴りたい気持ちに駆られる。

どちらにしても今すぐ下ろして欲しくて暴れるんだけども、がっちり抱えられているので無理そうだった。
皐月さんはこんなにも細いのに、意外にも力があるらしい。

リビングのソファーにそっと下ろされて、その場に立ち上がる。
「せっかく座らせてあげたのに」と口を尖らせるけれど、そんなの知らない。


「皐月さん」

「やだよ」


まだ何も言ってない。
逃げられる前に皐月さんの腕をガシッとつかんでやった。
それから、精一杯の笑顔。


「私と少しお話しよう!!?」

「風呂!!」

「とか言って逃げる気でしょう!? なんとなく分かってきたんだから!!」

「カノチャンってもしかしてドSなの!?」


そうして言いたい放題の皐月さんをソファーに座らせるまで、しばらく格闘が続いたのだった。