ワインレッドにさよならを

「今、私を大事にしてくれる人がいるんです。その人のこと私はまだ好きかわからないんですけど」

 しっかりと彼の視線に正面からぶつかって、声は震えて少し情けない顔をしているとは思ったけれど。
 これが理香の正直な気持ち。


「……次に好きになるなら、その人がいいなって思うんです」


 理香の言葉に誠一は少し驚いたように目をみはり、それから降参、とばかりに手を上げた。

「惜しいことしたなって思ってる。今の理香が一番きれいだ」

 それは理香にとって最高の褒め言葉だった。

 無理をして背伸びをしていたあの頃の自分ではなく、今のありのままの自分のほうがいいのだと。

「送ってくださってありがとうございました」

 晴れやかな笑顔で理香は頭を下げて、車から降りた。
 そのまま振り返らずに自分のマンションのエントランスをくぐる。


 いつの間にか通り雨も降り止んで、空は明るくなっていた。