ワインレッドにさよならを

「……あ、あの、……」

 ジッと至近距離でこちらを見つめる彼の瞳。
 その瞳にまた自分が映っているのだということに心が震える。

「理香、」

 と熱っぽく囁かれる声に、脳みそが揺さぶられて、何も考えられなくなりそうだった。

「……もう俺のこと、嫌いになった……?」

 捨てられた子犬のような目でそんなことを言うのは、ずるい。
 
 いつもキリリと精悍な顔立ちの彼が、甘えるように自分を見つめてくると理香は弱くなってしまう。

 それを多分彼自身わかっていてやっているのだろう。

「そんなことは、……でも、……でも、……」

 理香の思考が霧散する。

 彼の瞳に見つめられると、全身が熱くなって、理性が溶けてしまう。

 ゆっくりと近づく誠一の唇を受け入れるべきかどうか、理香は思考することができなくて、柔らかな感触を唇に感じてそのまま身を委ねそうになる。

 啄む優しい口付に胸が震えて、体中が歓喜する。
 柔らかな感触にうっとりして、身体から力が抜けてくる。
 
 このまま彼の背に手を回して受け入れれば、また元通りになるのだろう。


――……理香さん


 そう思った瞬間、理香の頭に浮かんだのは悠太の顔だった。