ワインレッドにさよならを

 最近悠太の仕事が少し忙しくてなかなか会えない。


 つい最近まで新人だと思っていたけど、がんばりが認められたのか新しいプロジェクトで先輩の補佐をすることになったらしい。

 今日も休日返上で仕事をしているようだった。

「嬉しいけど大変です。……理香さんにはやく会いたいなあ」

 そんな可愛いことを言うから、理香も会いたくて仕方なくなってしまった。

 スピーカーから聞こえる悠太の声は心なしか疲れが滲んでいる。

「俺、やっぱ全然ダメダメです。先輩の足引っ張ってばかりで情けなくて……」

 珍しく弱気な声。
 悠太にしては珍しくて、理香も少し心配になる。

「でも、明日はお休みなんだよね?久々にゆっくりできる?」
「はい……なんとか今日中には一段落すると思います」
「よかった。じゃあゆっくり休んでね」
「あの、……理香さん、」
「うん?」
「……今日仕事終わったら理香さんの家いってもいいですか」
「悠太、疲れてるんじゃないの?」
「うん。疲れてるから、理香さんに会いたい……」

 ストレートな言葉に理香の頬が熱くなる。
 疲れが微かに滲む悠太の声はどこか妙にいつもよりも色っぽく響いて、なんだか妙に落ち着かない。

「……う、うん。待ってる」

そんな悠太に理香は少しだけどきまぎしてしまう。

「悠太の好きなオムライス作って待ってるね」

 こんなにも鼓動が高鳴る理由はまだ理香のなかでわからないままだったけれど、何かが少しずつ音を立てて変わりはじめていることだけはわかる気がした。