ワインレッドにさよならを

「なんで悠太は……私のことなんか好きでいてくれるの?」
「そんなの俺が一番知りたいですよ」

 困ったように悠太は笑う。

「でも、好きになったらどうしようもないじゃないですか」
 
 その気持は理香が一番よくわかる。
 だからこそ、中途半端に悠太を苦しめることはしたくないと思うのだ。

「理香さん、俺、邪魔ですか?」

 優しく小さな子供に言い聞かせるみたいに、悠太は理香の顔を覗き込む。

「そんなわけない!邪魔なんて思わないよ!」
「じゃあ、そばにおいてください。理香さんが邪魔じゃないなら」

 でも、と理香の瞳が戸惑いに揺れる。
 そうすることで悠太を傷つけるのは嫌だ。

 距離をおいたほうが互いのためではないかと、理香は言い出したかったけれど、悠太は穏やかな顔で首を振った。

「でも、……」
「あのね、理香さん。俺は理香さんが思ってる以上に悪い男なんですよ」
「……え?」

 悪い男。
 
 その単語がここまで似合わない人間も珍しいと、理香は不思議そうに目を瞬かせる。

「理香さんは俺を買いかぶりすぎです。見返りを求めてないって理香さんは言ってたけど、俺は求めてますよ。下心しかありません」
「そう、なの……?」
「理香さんが俺のこと好きになってくれたらいいな、って思ってるしこうやってせっせと理香さんのもとに通って理香さんが好きな人と別れて弱ってるとこにつけこもうとしてます」