ワインレッドにさよならを

 それからしばらくして、理香から別れを切り出した。

 さよならを告げると誠一は少しだけ驚いた顔をしたけれど、すぐにわかったと言った。

 本当は理香も引き止めてほしい気持ちがあったけど、彼はあっさりと頷いて、たったそれだけで二人の関係はなにもなかった頃のように戻った。

 いいや、戻ることなどできない。

 簡単に戻れたらどれだけよかっただろう。
 理香だけは今もその気持ちを引きずったままだ。

 だから、ワインレッドのリップも捨てられないまま。

 今はどうすることもできない。
 
 頭の中はこんなにも誠一のことでいっぱいだ。
 
 本当は会いにいきたい、また抱きしめてほしい。
 けれどそれはもうできない。

 ただ時が解決してくれるのを待っていた。


 時間が過ぎて、彼とのことがすべて思い出になって昇華されれば、この辛い気持ちも少しはやわらぐのかもしれないと、今はただそう願うばかり。