「ジェリードイールです。新鮮な野菜を添えました」
給仕係がそう説明する。ジェリードイール……つまり鰻のゼリー寄せだ。刻んだパプリカを混ぜているのか色味は多少カラフルだが、やはりどう見ても不味そうだとサマラは思ってしまう。
本来あまり晩餐会で出される料理ではないのだが、いい鰻が手に入ったのか、それとも新しい料理人とやらは腕に自信があるのか、ステュアート伯爵は自信満々に微笑んでいた。
「……」
「……」
「……」
ディーとサマラとカレオは皿を見つめたまま固まっている。味の想像はつくが、晩餐会で出された料理に手をつけないわけにもいかない。水で、いや、ワインで流し込むしかないと考えていたときだった。
「ジェリードイール? 鰻か。ふーん」
レヴが料理をマジマジと見ながらスプーンに掬った。そしてサマラたちが目を見開き注目する中、彼はそれをぱくりと口に含んだ。
味わうようにモグモグと咀嚼しているレヴの顔が、やがて徐々に青ざめ引き攣っていく。
「…………? ………っ!? ………~~ッ!!!!」
レヴが真っ青な顔をして口もとに手をあてたのを見て、サマラは慌てて「わーっ! 吐き出しちゃ駄目! 飲んで!」と彼を止めた。
「水! 水で流し込んでください!」とカレオがレヴに水のグラスを差し出す。レヴはそれを受け取ると涙目になりながら苦しそうに口の中のものを飲み込んだ。
「ぅぉえッ!! 嘘だろ、沼の水の味がしたぞ!? これ絶対食いものじゃねえだろ!?」
レヴは半泣きで訴える。とんでもなく失礼なことを口走っているが、周囲もジェリードイールに苦戦して微妙な雰囲気になっていたので目立つことはなかった。
「ジェリードイールは好みがわかれる味だから……」
サマラがレヴの口もとをハンカチで拭きながら言うと、レヴはテーブルをサッと見回し「お前ら全員手ぇつけてないじゃん!」と裏切られたような表情を浮かべた。
「クソ不味いのわかってたんなら止めろよ!」
「私の口には合わなくても、もしかしたらレヴは好きなるかもしれないと思って……」
「なるかこんなもん!」
よほど衝撃的な味だったのか、レヴはまだ半泣きのままだ。いや、自分が被害に遭うところを何も言わず見物されていたのがショックだったのかもしれない。
「まあまあ。ジェリードイールだけは何年経っても俺も慣れませんよ。今までこれを好きな人に会ったこともないです」
カレオがレヴを宥めながら、眉尻を下げて笑う。卓のビネガーを大量に皿にかけ、ジェリーをひと口食べてすぐにワインで流し込んだ。
「……昔、とある国の王はこれが好物で朝から麦酒と一緒に食していたそうだ。稀に好む者もいるからいつまでも伝統料理として受け継がれているのだろう」
そう冷静な口調で教えてくれたのはディーだ。しかしスプーンすら手に取る様子のない彼にレヴはうっかり「いやエラそうに言ってないであんたも食えよ」と口調を取り繕うことも忘れてツッコんでしまった。
結局。サマラとカレオはなんとか水やワインで流し込みながらジェリーを半分ほど食べ、ディーは一切手をつけずに皿は片付けられた。レヴは「絶対死んでも二度と食わない」と苦々しい顔をしていた。
人間になってもうすぐ四ヶ月。様々な人に会い、様々なものを食べ、日々人間としての自分を模索中のレヴであるが、この日は初めて『嫌いな食べ物:ジェリードイール』という趣向が確定した記念すべき日となったのであった。
給仕係がそう説明する。ジェリードイール……つまり鰻のゼリー寄せだ。刻んだパプリカを混ぜているのか色味は多少カラフルだが、やはりどう見ても不味そうだとサマラは思ってしまう。
本来あまり晩餐会で出される料理ではないのだが、いい鰻が手に入ったのか、それとも新しい料理人とやらは腕に自信があるのか、ステュアート伯爵は自信満々に微笑んでいた。
「……」
「……」
「……」
ディーとサマラとカレオは皿を見つめたまま固まっている。味の想像はつくが、晩餐会で出された料理に手をつけないわけにもいかない。水で、いや、ワインで流し込むしかないと考えていたときだった。
「ジェリードイール? 鰻か。ふーん」
レヴが料理をマジマジと見ながらスプーンに掬った。そしてサマラたちが目を見開き注目する中、彼はそれをぱくりと口に含んだ。
味わうようにモグモグと咀嚼しているレヴの顔が、やがて徐々に青ざめ引き攣っていく。
「…………? ………っ!? ………~~ッ!!!!」
レヴが真っ青な顔をして口もとに手をあてたのを見て、サマラは慌てて「わーっ! 吐き出しちゃ駄目! 飲んで!」と彼を止めた。
「水! 水で流し込んでください!」とカレオがレヴに水のグラスを差し出す。レヴはそれを受け取ると涙目になりながら苦しそうに口の中のものを飲み込んだ。
「ぅぉえッ!! 嘘だろ、沼の水の味がしたぞ!? これ絶対食いものじゃねえだろ!?」
レヴは半泣きで訴える。とんでもなく失礼なことを口走っているが、周囲もジェリードイールに苦戦して微妙な雰囲気になっていたので目立つことはなかった。
「ジェリードイールは好みがわかれる味だから……」
サマラがレヴの口もとをハンカチで拭きながら言うと、レヴはテーブルをサッと見回し「お前ら全員手ぇつけてないじゃん!」と裏切られたような表情を浮かべた。
「クソ不味いのわかってたんなら止めろよ!」
「私の口には合わなくても、もしかしたらレヴは好きなるかもしれないと思って……」
「なるかこんなもん!」
よほど衝撃的な味だったのか、レヴはまだ半泣きのままだ。いや、自分が被害に遭うところを何も言わず見物されていたのがショックだったのかもしれない。
「まあまあ。ジェリードイールだけは何年経っても俺も慣れませんよ。今までこれを好きな人に会ったこともないです」
カレオがレヴを宥めながら、眉尻を下げて笑う。卓のビネガーを大量に皿にかけ、ジェリーをひと口食べてすぐにワインで流し込んだ。
「……昔、とある国の王はこれが好物で朝から麦酒と一緒に食していたそうだ。稀に好む者もいるからいつまでも伝統料理として受け継がれているのだろう」
そう冷静な口調で教えてくれたのはディーだ。しかしスプーンすら手に取る様子のない彼にレヴはうっかり「いやエラそうに言ってないであんたも食えよ」と口調を取り繕うことも忘れてツッコんでしまった。
結局。サマラとカレオはなんとか水やワインで流し込みながらジェリーを半分ほど食べ、ディーは一切手をつけずに皿は片付けられた。レヴは「絶対死んでも二度と食わない」と苦々しい顔をしていた。
人間になってもうすぐ四ヶ月。様々な人に会い、様々なものを食べ、日々人間としての自分を模索中のレヴであるが、この日は初めて『嫌いな食べ物:ジェリードイール』という趣向が確定した記念すべき日となったのであった。


