「私はね、このフルコーデペアルックがいいと思うんです。三つ揃いとドレス、パーティーにぴったりでしょう?」

 サマラはディーの腕にすがりながら広告を指さす。来月に予定している貴族の懇親会には、珍しくディーも出席する。別国の魔法大臣が参加するのでバリアロス王国魔法大臣のディーも出席しないわけにはいかないのだ。パーティーは懇親会と銘打つだけあって和やかなもので、皆家族やパートナーを連れてくる。サマラも出席予定だ。非常に珍しいディーとのパーティー参加、ここは是が非でもペアルックで出席したい。

 しかしディーはもはや広告から大きく顔を背けると、またもやため息をついた。

「お前のドレスは何を買っても構わん。だがそんなものを俺に着せるな」

 やはりディーは手強い。渾身の上目遣いのおねだりをしてもさすがにペアルックは看過できなかったようだ。サマラはしがみついていた腕からパッと離れると、拗ねた表情で唇を尖らせた。

「じゃあいいです。お父様とは着ないもん。カレオ様とペアルックにしよーっと」

 貴族の懇親会なので、パーティーにはカレオも参加予定だ。彼ならばサマラからペアルックのおねだりをされたら間違いなく意気揚々と聞きいれるだろう。すると。

「……なんだと?」

 大きく顔を背けていたディーがものすごく不機嫌そうに振り返った。

「それは父娘ペアルックだろう。なぜカレオが出てくる」

「父娘以外着ちゃダメってルールはないもの。お父様が絶対着てくれないなら、私はカレオ様にお願いします」

 ディーは不機嫌と呆れと微かなショックを混ぜて抑え込んだような表情を浮かべ、それから「勝手にしろ」と言い残して居間を出ていってしまった。

(お父様、すぐ拗ねる~)

 サマラが転生を自覚してからもう七年。いい加減ディーのパターンにも慣れてきた。彼は納得のいかないことがあるとすぐに部屋を出ていってしまうのだ。独りじゃないと落ち着かないのだろう。サマラは彼のそんな子供っぽいところをもう熟知している。

――そして、彼が娘に甘いこともよーく知っているのだ。

 翌朝。朝食の席でディーはコーヒーを飲みながら当たり前のように言った。

「朝食が済んだら出かけるぞ。支度をしろ」

「おでかけ、ですか?」

「服を買いに行くんだろう、『Fluffy』とやらに」

 ぶっきらぼうに言うディーにサマラは眉尻を下げて破顔し、元気よく「はい!」と返事した。