城下町は王宮をぐるりと囲む半円の形になっている。王宮に向かって緩やかな斜面になっており、他の街との境になっている下の方は安宿や市場、工房などが並んでいた。そこから登っていくとパン屋などの食料品店、薬屋、生活用品の問屋、などが多く、さらに上は本屋や楽器屋、洋品店に靴屋、仕立て屋など小綺麗な店が建ち並ぶ。そんな階層の合間合間を縫って住宅街や畑が広がり、上に行けば行くほど大きく高級な建物が増えた。
サマラたちは下の方から順に街を見ていくことにした。
「ここ! 来てみたかったんだよ! いっつも馬車で通り過ぎるだけでさあ。うわ、人がワラワラいる」
レヴは興奮した様子で辺りをキョロキョロと見回した。帝都の境であるここは、他の街や国から来た旅人やら商人やら移民やらが多く、とんでもなく雑多で賑やかな場所だ。
古びた石畳の道を積荷の馬車がひっきりなしに走り回り、何か目的があるのだろう老若男女が急ぎ足で行き交っている。異国からの者も多く、募兵に応募にきたいかつい男の集団や、宿の呼び込みをしている浅黒い肌の陽気な女、工房のお使いにきたらしき痩せっぽっちの少年、どこが顔かわからないほど鬚を蓄えた男と、隻腕の年寄りなどなど、まさに多種多様な人々が集まっていた。
「すっごい人混み……。マリン、迷子にならないように手を繋ごうね」
小さなサマラたちはあっという間に人波に呑まれてしまいそうだ。サマラはマリンと硬く手を繋ぎ、レヴの方を振り返る。
「ねえ、人混みを出るまでレヴも手を――」
そう言いかけたサマラは目が点になった。そこにいるはずのレヴが、すでにいなかったからだ。
「あの馬鹿! なんで勝手に動き回るのよ!」
幸い(?)レプラコーンはそこにいたので、レヴがどこに消えたのか聞く。使い魔は離れていても主の場所がわかるので助かった。
レヴは市場で目を輝かせながら、次々に露店を見て回っていた。サマラが肩を怒らせて追いかけたのを見ても気にせず、「なあ、見ろよ! 鉱石売ってる! 全部クズ石ばっか!」とゲラゲラ笑いかける始末だ。
「もう、勝手な行動しないで! 迷子になったらどうするの!」
「大丈夫だよ、お前が迷子になったらちゃんと見つけて迎えに行ってやるから」
「私じゃない! あなたが迷子になりかけてたの!」
「あ、おっちゃん。金貨ちょうだい。これ買ってみたい」
プリプリ怒るサマラに構わず、レヴはレプラコーンから金貨をもらって嬉しそうにクズ鉱石を買っている。それを「あとで加工してあそぼーっと」とポケットに詰めると、すぐに別の露店へ移っていってしまった。
その後ろ姿を見て、サマラは大きくため息をつく。これがやんちゃな子供を持った母親の気持ちかと、新鮮な苦労を知ってしまった。
とりあえずレプラコーンはサマラから離れないでいてくれるので、レヴを完全に見失うことはないだろうと考えていたら、あっちこっちの露店で何かを買ってきたレヴが駆けて戻ってきた。
「サマラ、これやるよ。お前によく似合うと思う!」
そう言って手に押しつけてきたのは、異国情緒漂い過ぎる木のお面だ。おそらく南の国のシャーマンとかがつけて踊るやつだろう。カラフルな色と模様に染められ笑っているそれは、不気味としか言いようがない。マリンが青ざめ怯えている。
(私に? 似合う? 何が?)
衝動的に買ってしまったものの、やっぱりいらなくなって押しつけられたような気がしなくもないが。お礼を言おうとして顔を上げたとき、レヴはまたどこかへすっ飛んでいこうとしていたので慌てて手を掴んだ。
「ちょっと待って! はしゃぎすぎ! せっかく一緒に来たんだから、一緒に見て回ろうよ!」
捕まえられたレヴは少し冷静になったのか、「それもそうだな」と頷いて、掴まれていた手を繋ぎ直した。
「そんじゃ、今度はあっちの笛売り見にいこうぜ! 異国の木や石で出来てるんだ!」
こうして小さな魔法使いふたりと小さな妖精とおじさん妖精は、人混みの中をチョコマカと走り回って色んな国のガラクタを買ったのだった。


