謙遜しているが、カレオが女性に人気があるのは本当だ。顔立ちもスタイルもよく性格も温和で紳士的ときている。そのうえ大陸最強の剣士と謳われ、王宮の兵士の指南役を務める子爵家当主ともなれば、結婚したい貴族や富豪の娘たちがどれほどいることか。おそらく帝都でアンケートを取ったら「結婚したい貴族第一位」に輝くのではないだろうか。

 ちなみにディーもイケメンで魔公爵というこの国最上位の爵位持ち独身だが、バツイチ子持ちなのと性格に難ありという条件からモテ度はカレオに劣る。それでも爵位に目が眩み娘を嫁がせたい貴族は後を絶たないが、ディーは社交界に出ないうえ屋敷に届いた結婚の申し込みは封も開けずに燃やしてしまう始末だ。

 そんな取り付く島もないディーと違い、社交界にも顔を出しほどよく愛想のいいカレオには女性もとっつきやすいのだろう。まだ成人前なのでサマラは舞踏会に行ったことはないが、彼がダンスやお喋りを申し込まれて女性に囲まれているだろうことは想像に易い。

 しかし。ディーほどあからさまではないが、カレオも結婚には興味がないように見える。結婚どころか女性といい仲になったという話さえ聞かない。女性からの数多のアタックを、のらりくらりとかわしているみたいだ。

「……カレオ様は結婚しないんですか?」

 気になって、サマラは思わず尋ねてしまった。
 ゲームではリリザ以外の女性に興味のなかったカレオだが、この世界ではどうなのだろう。できることなら彼には幸せになってもらいたいとサマラは思う。

 カレオは落ち着いた笑みを浮かべ、「しませんよ」と微かに目を伏せてカップに口づける。それから静かにカモミールティーを飲んで、まだこちらを見つめているサマラに向かって目を細めて言った。

「サマラ様。昔話をお聞かせしましょうか。遠い遠い国の物語です」

 暖炉の前で昔語りをするカレオの周りに、妖精たちもチラホラと集まってくる。小さな隣人たちの姿はカレオには見えないが、まるで皆に語り掛けるようにカレオは口を開いた。