尾行開始!

 いつもは校則違反のバイク通学なのに、彼は、徒歩だ。

「~♪♪」

 ――えっ? 鼻歌?

 ほんのりと流れてきたその歌は “ 楽しい気分の時に聴きたい曲ランキング ” の上位にいつもいる、とても明るい曲だ。

 レアすぎる! いつもクールな総長が!
 まさか、総長の鼻歌聴けるなんて……。

 僕は唇噛みしめて、涙をこらえた。

『ぴよこ幼稚園』

 幼稚園に着く。

 さすがに中には入れないから、そっと覗く。他のお迎えに来たお母さん達に紛れた総長がちらっと見える。

 外に出てきた。

「まぁ、なんて可愛らしいこと!」

 思わず口調が乙女モードになる。

 総長に似て、可愛すぎる。
 
 今すぐに抱きしめたい。けれど、総長に怒られそうで怖いからムリ!

 その時、眩しい光景を見てしまった。

 彼が妹を抱きしめている。

 優しい表情で、ふんわりと優しく包み込んでいる!

 あぁ……。眩しい。
 総長の辺りだけ眩しくキラキラと輝いていた。

 転びそうになった妹を物凄く心配したり、持ってきたうさぎさんの絵が描いてある水筒を妹に渡して、水分補給させたり……。 
 
 妹に対する気配りが凄い!

 ふたりは手を繋いで歩きだした。

 もう、ひとつひとつの仕草が眩しい。

 ふたりはまっすぐ帰らずに公園に立ち寄った。

 僕は公園内の木の陰に隠れる。

 総長がカバンから何かを出す。

 砂場セットだ。ピンク色の小さなバケツの中に、砂でアイスつくれたりするやつとかが、わんさか入っている。

「アイス屋さんごっこするか! 兄ちゃん、お店の人な!」

 えっ? 見たい。お店の人の役やってる総長、見たいよ?

「ちょっとだけ待ってて!」

 総長が妹にそう言うと、こっちに向かってきた。

 隠れていた僕をじっと見ている。
 総長の目が、帰れ!と言っている。

「すみませんでした!」

 僕は逃げた。

「やっぱり、尾行バレていたのか……」

 かっこいいな!
 中身もイケメンだな。

 ――総長、これからも、ついていくっす!

 僕は、妹に絵本を読んでいる総長の姿を想像しながらスキップした。