最強帝南の純愛

ガラガラガラ…


数年ぶりに私服に袖を通し
自由に外の空気を吸う瞬間だった。
よく映画やドラマで見るような
1人で出所していくような事は少ない
数人一緒に説明を受け、
一緒に扉を出て行く

身内が迎えに来ている人
身柄引き受け人が来ている人、さまざまだ

皆んな刑務所に入っていたと言わなければ
分からないだろう

お決まりの坊主頭。
派手なアクセサリーを付けていなければね
この時ほどあっけなく思った事はなかった

いつもの日常のように
俺は家族の待つ近くの駐車場まで歩いた。

家族や仲間に謝らなきゃな
仲間に合わせる顔がねーな

…なんでこうなった?
…いつから始まったんだ?

俺は俗に言うグレていた頃を
深呼吸をしながら、思い浮かぶあの頃を。





1993年夏

俺のいた帝南「ていなん」中学校は
歴代代々続くような、
言わゆるヤンキー学校ではなかった

それだけに、写真も色褪せる年月が経っても
この頃の俺らの話は
伝説としていまだ語り継がれている。

真夏の13歳の今日も
金髪、赤髪、青髪、さまざまな色をした
髪のヤンキーと
バイカーファッションをした
仲間が集会を開いている。


『おー!陸ー』と呼んでいるのは
幼馴染でこの辺り一帯のボスの光(コウ)ちんだった。

こんなクソ暑い夏でもバッチリ服をキメるために
黒髪を6.4に分けた髪を
金髪ロン毛にする為伸ばしている
20万の革ジャンにブーツカットのパンツ
3万のブーツを履いて
シルバーアクセサリーを揺らしている。

光ちんの影響を受けた仲間の9割以上が
バイカーファッションを着ていた。
それ程光ちんに憧れる奴は多い


俺は逆に背中に"龍神"雲の上に龍の刺繍入り
左腕に"天上天下唯我独尊"
右腕に"天上天下唯我無敵"
と刺繍の入った昔ながらの
短ランにボンタンだ。
ヤンキーといえばのファッションを好んだ。
髪は赤髪のリーゼントを7.3に分けている

『やっぱりガキの頃くらいありきたりだけど、
昔ながらのヤンキーでいいんじゃねー?』と俺は言ったが

『まぁ強制じゃねーから』と光ちゃんは言う

皆んなが着やすいしメンバー集めや、
この時期流行っていた
バイカー達もその方が入りやすいのだろう。

それにしても暑くないのか真夏に革ジャン…。



ローラー公園とゆう
人が来ない場所がたまり場だった。
『よう聖川(ひじり)』と
髪をツンツンに立てているが
前髪の真ん中しかない派手髪に
(前髪の真ん中以外バリカンで刈っている)
ブーツカットに赤いブーツ
黒と赤の革ジャン
サングラスをかけた仲間に俺は話しかけた。

聖川に『遅かったじゃん』と言われたが
『あー3年2人ボコってた』と言うと
『またかよ』と笑われた。

喧嘩の話をしてると、豊(ゆたか)と
涼(りょう)と有村(ありむら)が来た。

豊はいつもの青髪にツーブロック
を逆立てている、ダメージがかった
Gジャンにブーツカットにブーツ

涼はとにかく縦も横もデカい体に
Tシャツにロールアップさせたジーンズに
ブーツを履いていたが、汗だくだ

有村は長い髪に革ジャンを脱いでブーツだ
(有村は幹部ではないが
俺が気が合うので
推薦してメンバーに入ってきた)

皆んなゴツいシルバーアクセサリー
シルバーのZIPPOライター
ブーツも鉄板入りだ

ヤンキーファッションの
俺と今学校にも来ていない仲間を除いて


少年の頃は喧嘩の話は盛り上がる。
祭りごとのイベントのような感覚に似ている。

仲間達がまた揉め事かよと茶化す。

俺は、『んーーー』とリーゼントを
整えながらなんとなくぶっとばした
『特に揉め事じゃねーよ』と
期待に反してありのままを言ったが、
周りは勝手に盛り上がっている。

『どうせなら2年も、3年もやっちゃおうぜ』と
豊と涼が言っている。

俺が完全に気分で喧嘩してボコってきたので、
特に先輩が悪い訳じゃない、
皆んな暇が1番の苦痛で刺激が欲しいのだ。

光ちんの立場からすると、
すぐ動ける人数が1年だけで
で20人以上いる、全員イケイケだ。

2年と3年は10人くらいだが
3年には仲間がいるし、
あんまり集団リンチに近い事は避けたかったのか
ただ笑って畳んじまうかと笑い飛ばしていた

俺は聖川から『1人で無茶するな』と度々心配された。
こいつは面倒見がいい優しいやつだ。

ただ切れると声が本当に同一人物か⁉︎と思うほど変わる。

口調が変わるのは分かるが、声も変わるのだ。
あー分かったよ、と言ったが、明日も変わらず暴れるのが俺たちだ。

ダラダラ喋ってるとまた何人か来た、今回はバスの登場だ。

光ちんが気弱な勝(まさる)に全員乗れる車が欲しいと言いい、親の名義でバスを買わせたのだ。

おせーよとさっそくドスっと蹴りを1発。
勝は親に鍵を取り上げられてと必死の形相で説明していた。

落ち着いた所で隣の薪ヶ丘「マキガオカ」
中学に行くぞと光ちんが言い出して、全員バスに乗り込んだ。

そう、隣の中学にも化け物のように危ない奴らトリオがいるのだ。

車のお披露目にと言った所か、格の違いを更に見せ付けるためか。