寂しい。
俺は言葉にしない感情をずっと抱えていた。雫は案外俺より大人なのかもしれない。出向の内示以来明るく振る舞い、寂しがる素振りもない。むしろ、新天地へ向かう俺を励ましてくれる。仙台の名所旧跡や、美味しいものや名店を調べ、『遊びに行くから』と前向きな言葉をくれる。
彼女には趣味もある。きっと俺と離れている間は、仕事に邁進しつつも好きなアニメや漫画を楽しみ、充実した日々が過ごせるのだろう。
情けないのは俺の方。彼女のいない生活を思うと、身も心も抜け殻になりそうだ。
「高晴さん、明日の新幹線は?」
雫がお茶をリビングのローテーブルに置いて尋ねてくる。スーツケースに荷物を詰めながら俺は顔をあげた。
「明日は九時半だったかな。直接駅に行くから、普段よりゆっくりだよ」
「そうなんだ。明後日のお帰りも夜中とかじゃないんでしょう?」
「ああ、夕食の頃には帰れるはずだよ。お土産を買ってくるね」
スーツケースを閉め、ソファにかけて雫の淹れてくれたお茶を手に取る。すると、雫が横にちょこんと腰かけた。
「気を付けてね、高晴さん」
雫の声のトーンはいつも通りだった。
「もうちょっとで、行っちゃうんだ」
わずかに空気が変わった。首を捻じり、雫の横顔を見て驚いた。大きな目にいっぱいの涙が溜まっていたのだ。
「雫……」
「我儘言うね。我儘だから聞き流してね」
雫が肩を震わせる。目に溜まった大粒の涙がぽろっと零れ落ちる。
さらにいくつもの涙が膝にあたって弾けた。
「本当は行ってほしくない。二年も離れ離れなんて嫌。高晴さんがいない生活は嫌」
ダムが決壊したように溢れたのは涙と言葉。雫は勢いのまま言った。
「そうでなければ仕事を辞めてついて行っちゃいたい。高晴さんの傍にいたいよ」
雫は割り切ってなんかいなかった。俺を困らせまいと我慢していただけだ。
俺と同じだ。離れて暮らすのが耐えられない。一緒にいられないことが苦しい。言葉にしないだけで、ずっとずっと悲しさと寂しさでいっぱいだったのだ。
俺は言葉にしない感情をずっと抱えていた。雫は案外俺より大人なのかもしれない。出向の内示以来明るく振る舞い、寂しがる素振りもない。むしろ、新天地へ向かう俺を励ましてくれる。仙台の名所旧跡や、美味しいものや名店を調べ、『遊びに行くから』と前向きな言葉をくれる。
彼女には趣味もある。きっと俺と離れている間は、仕事に邁進しつつも好きなアニメや漫画を楽しみ、充実した日々が過ごせるのだろう。
情けないのは俺の方。彼女のいない生活を思うと、身も心も抜け殻になりそうだ。
「高晴さん、明日の新幹線は?」
雫がお茶をリビングのローテーブルに置いて尋ねてくる。スーツケースに荷物を詰めながら俺は顔をあげた。
「明日は九時半だったかな。直接駅に行くから、普段よりゆっくりだよ」
「そうなんだ。明後日のお帰りも夜中とかじゃないんでしょう?」
「ああ、夕食の頃には帰れるはずだよ。お土産を買ってくるね」
スーツケースを閉め、ソファにかけて雫の淹れてくれたお茶を手に取る。すると、雫が横にちょこんと腰かけた。
「気を付けてね、高晴さん」
雫の声のトーンはいつも通りだった。
「もうちょっとで、行っちゃうんだ」
わずかに空気が変わった。首を捻じり、雫の横顔を見て驚いた。大きな目にいっぱいの涙が溜まっていたのだ。
「雫……」
「我儘言うね。我儘だから聞き流してね」
雫が肩を震わせる。目に溜まった大粒の涙がぽろっと零れ落ちる。
さらにいくつもの涙が膝にあたって弾けた。
「本当は行ってほしくない。二年も離れ離れなんて嫌。高晴さんがいない生活は嫌」
ダムが決壊したように溢れたのは涙と言葉。雫は勢いのまま言った。
「そうでなければ仕事を辞めてついて行っちゃいたい。高晴さんの傍にいたいよ」
雫は割り切ってなんかいなかった。俺を困らせまいと我慢していただけだ。
俺と同じだ。離れて暮らすのが耐えられない。一緒にいられないことが苦しい。言葉にしないだけで、ずっとずっと悲しさと寂しさでいっぱいだったのだ。



