お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】

彼女の笑顔を毎日見られなくなることが、俺はつらい。
そうだ。俺の方が雫と離れたくない。彼女のいない毎日を想像できない。気持ちは伝わっているし、距離で心変わりすることはお互いにないと言い切れる。
だけど、彼女と別々に過ごす数年を思うと、やりきれない苦しさを覚える。

俺がこの気持ちを口にすれば、雫は仕事を辞めてついてくるかもしれない。もしくは、この期間に妊娠と出産を提案すれば、産休育休の期間、雫と一緒に出向先で過ごせるかもしれない。
彼女のことだ。俺が望めばキャリアを捨てることも、出産で中断することも躊躇しないだろう。

しかし、それはあまりに自分本位な考えだ。新しい仕事に携わっている雫に、寂しさだけで要求していいことじゃない。俺の子どもじみた我儘で彼女の人生を変えたくない。

だから、俺は何ひとつ言わないままでいようと思う。彼女が平気そうにしてくれているのだ。俺だって耐えるべきだ。

「高晴さん、大変。卵を買い忘れちゃった。すき焼きには必須なのに」

雫がバスルームに顔を出して言う。俺はシャワーを止め、彼女に向き直った。

「お風呂を洗ったら買いに行ってくるよ。コンビニでいいかな」
「うん、ありがとう。……私も一緒に行こうかなあ」
「じゃあ、一緒に行こう」

可愛らしく笑う雫は、ほんのそこまでの近所でも俺と散歩に出られるのが嬉しそうだ。
愛しい俺の妻。大丈夫、離れていたって愛は変わらない。俺も雫も、互いを誰より大事に想っているのだから。


俺の出向は三月から二年と決まった。二月の半ば、挨拶や住居を決めるために一泊で現地の仙台へ向かうこととなった。
下見旅行の前夜、夕食の後に荷造りをする。
明日は一泊だが、引越しまでも間がない。内示が出て半月、少しずつ荷物の整理など準備は進めている。身の回りが片付いていくと、いよいよだという感覚も湧いてくる。