廊下に出て、人の中を進むと控室前に兆徹がいた。すでに多くの関係者に囲まれて笑顔を振りまいている。演者本人でもあるというのに大変だな。
雫は小さなブーケを用意している。それを渡してひと言交わしたら撤収がいいだろう。おそらくは彼にとって重要な仕事相手も大勢ここにいるはずなのだ。彼は前途洋々の人気声優。一度仕事をしただけの相手にこれ以上構う理由はない。
彼が雫に下心を持っているなど、俺の杞憂だったのかもしれない。
しかし次の瞬間、兆徹がこちらを見た。その目が雫を捉えるのがわかった。
「榊さん、今日はありがとうございます!」
他の人たちにぺこぺこ頭を下げて、兆徹が輪を抜けてきた。今日の主役が、うちの妻を破格の扱いである。雫はぽっと頬を赤らめてブーケを差し出した。
「兆さん、今日はお招きいただきありがとうございました。最高でした!」
「榊さんの好きなジャスとはキャラが違ったんじゃないかなあ」
「兆さんの演じるキャラクターはみんな兆さんのテイストになりながらも、ぴたっとハマる感覚があるんです。今日は古典のロミオがぴったりハマっていました。今後、どんなロミオとジュリエットを見ても、今日の兆さんを思いだします」
熱心に語る雫に、嬉しそうな顔をする兆徹。すごくいい雰囲気だ。ファンと声優というより、互いに好意のある男女に見えてしまう……。
「榊さん、こちらの方は」
「あ、紹介が遅れました……」
「夫です」
雫の声に被せるように言った俺の言葉は、ちょっと低くてドスが効いていた。俺はそのまま真顔で、低く抑えた声を発する。
「今日はお招きいただきありがとうございました。感動しました。仕事では妻がお世話になりまして。CMが流れるのを楽しみにしております。……ほら、雫、兆さんもお忙しいから」
「あ……うん」
雫が明らかに困惑と不満の顔をしているけれど無視をして、兆徹に向かい頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
俺の挨拶に、雫も自分だけ残るわけにはいかない空気を察し、頭を下げた。
雫は小さなブーケを用意している。それを渡してひと言交わしたら撤収がいいだろう。おそらくは彼にとって重要な仕事相手も大勢ここにいるはずなのだ。彼は前途洋々の人気声優。一度仕事をしただけの相手にこれ以上構う理由はない。
彼が雫に下心を持っているなど、俺の杞憂だったのかもしれない。
しかし次の瞬間、兆徹がこちらを見た。その目が雫を捉えるのがわかった。
「榊さん、今日はありがとうございます!」
他の人たちにぺこぺこ頭を下げて、兆徹が輪を抜けてきた。今日の主役が、うちの妻を破格の扱いである。雫はぽっと頬を赤らめてブーケを差し出した。
「兆さん、今日はお招きいただきありがとうございました。最高でした!」
「榊さんの好きなジャスとはキャラが違ったんじゃないかなあ」
「兆さんの演じるキャラクターはみんな兆さんのテイストになりながらも、ぴたっとハマる感覚があるんです。今日は古典のロミオがぴったりハマっていました。今後、どんなロミオとジュリエットを見ても、今日の兆さんを思いだします」
熱心に語る雫に、嬉しそうな顔をする兆徹。すごくいい雰囲気だ。ファンと声優というより、互いに好意のある男女に見えてしまう……。
「榊さん、こちらの方は」
「あ、紹介が遅れました……」
「夫です」
雫の声に被せるように言った俺の言葉は、ちょっと低くてドスが効いていた。俺はそのまま真顔で、低く抑えた声を発する。
「今日はお招きいただきありがとうございました。感動しました。仕事では妻がお世話になりまして。CMが流れるのを楽しみにしております。……ほら、雫、兆さんもお忙しいから」
「あ……うん」
雫が明らかに困惑と不満の顔をしているけれど無視をして、兆徹に向かい頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
俺の挨拶に、雫も自分だけ残るわけにはいかない空気を察し、頭を下げた。



