雫は前夜からずっとテンションが高く、今日着ていく服や靴、バッグまで選んでいた。
本人に会うわけじゃない。客なんだからそんなに気張らなくてもいいんじゃないかと思っていたら、「『終演後、よろしければ楽屋にお越しください』って会社のアドレスにメールもらってるの」と笑顔が返ってきた。確かに招待席だし、お招きいただいたことへの礼をするのは吝かではない。でも、やっぱりその男、雫への下心がないか?
鳥居というデザイナーと違うのは、雫が相手の大ファンというところだ。お互いに好意があるとしたら……。
「高晴さん、ほらもう開場だよ。行こう」
「ああ」
悶々と考える俺には気づきもせずに、雫は先に立って歩きだす。
朗読劇自体はロミオとジュリエットであり、シェイクスピアの古典だ。俺でも知っている。シェイクスピアのセリフ回しをあまりいじっていないせいか、普通に聞けば難しいセリフばかりだ。それにほぼ主役のふたりしか出てこない形式なので、声の演技で魅せなければならない。
正直に言えば、非常に面白かった。実力をまざまざと見せつけられたといった感じだ。俺も雫に付き合って、いろんなアニメなどを見るようになったが、生の声優の演技は迫力があった。雫が感動してしまうのもわかる。
……しかしだ。横で実際に雫が感涙しているのを見るとやはり面白くないのも夫というもの。
「は~、涙出た~。すごかったねえ」
ハンカチで目元をおさえている雫に、俺はなるべく優しい笑顔を向ける。感動している雫の気持ちを壊したくない。
客席から退場していく人々を目にし、別な出口を指差す。
「ほら、兆くんに挨拶に行くんだろう? 関係者はあちらの出入り口を使っていいみたいだ」
「本当だね。はあ、この感動を直接伝えられるなんて幸せ~!」
「ご挨拶する方が多いだろうから、手短にしようね」
招待席から近い出入り口は関係者しか使えず、控室への廊下に繋がっている。事務所や本人の招待、雫のように仕事の関係者もいるようだ。
本人に会うわけじゃない。客なんだからそんなに気張らなくてもいいんじゃないかと思っていたら、「『終演後、よろしければ楽屋にお越しください』って会社のアドレスにメールもらってるの」と笑顔が返ってきた。確かに招待席だし、お招きいただいたことへの礼をするのは吝かではない。でも、やっぱりその男、雫への下心がないか?
鳥居というデザイナーと違うのは、雫が相手の大ファンというところだ。お互いに好意があるとしたら……。
「高晴さん、ほらもう開場だよ。行こう」
「ああ」
悶々と考える俺には気づきもせずに、雫は先に立って歩きだす。
朗読劇自体はロミオとジュリエットであり、シェイクスピアの古典だ。俺でも知っている。シェイクスピアのセリフ回しをあまりいじっていないせいか、普通に聞けば難しいセリフばかりだ。それにほぼ主役のふたりしか出てこない形式なので、声の演技で魅せなければならない。
正直に言えば、非常に面白かった。実力をまざまざと見せつけられたといった感じだ。俺も雫に付き合って、いろんなアニメなどを見るようになったが、生の声優の演技は迫力があった。雫が感動してしまうのもわかる。
……しかしだ。横で実際に雫が感涙しているのを見るとやはり面白くないのも夫というもの。
「は~、涙出た~。すごかったねえ」
ハンカチで目元をおさえている雫に、俺はなるべく優しい笑顔を向ける。感動している雫の気持ちを壊したくない。
客席から退場していく人々を目にし、別な出口を指差す。
「ほら、兆くんに挨拶に行くんだろう? 関係者はあちらの出入り口を使っていいみたいだ」
「本当だね。はあ、この感動を直接伝えられるなんて幸せ~!」
「ご挨拶する方が多いだろうから、手短にしようね」
招待席から近い出入り口は関係者しか使えず、控室への廊下に繋がっている。事務所や本人の招待、雫のように仕事の関係者もいるようだ。



