お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】

それなのに、高晴さんは私が堂々とお誘いする仕事関連のイベントが面白くないの?
なんか……納得いかない……。

「榊ー、空いてたらこっち手伝ってー」

先輩たちに声をかけられ、見ればそこには刷り上がった広告類の山。

「CM商品のポスターとポップですね。結構量あるなあ」
「とりあえず、このオフィスじゃ置ききれないから、小会議室に運ぶの。榊、一緒に運んでくれない」
「はい、わかりました」

先輩たちについて荷物を運ぶ。みんなで運んだら一度で済んだ。よかった、よかった。

「こんにちは、榊さん」

小会議室を出たところで声をかけられた。振り向くとそこにはなんとあの鳥居さんの姿。
おわあ! 原宿店に現れ、高晴さんが乱入してきた昨年の春以来!

「ご、ぶさたしてます、鳥居さん」

私は引きつりそうな笑顔で答える。先輩たちは先に行ってしまい、廊下には私と鳥居さんのみ。
嫌な相手かもしれないけれど、ニケーにとって優秀なデザイナーであることは間違いない。鳥居さんのデザイン、やっぱり売れ行きいいんだものなあ。

「素敵なご主人とは仲良くされていますか?」

にっこりと余裕たっぷりに微笑まれて、私は余計に引きつりそうになるのをこらえる。
……また絶妙にこじれているタイミングで……。「お陰様で」と答えるので精一杯だ。
鳥居さんは私のことをじろじろと眺める。それからふっと微笑んだ。

「榊さんみたいな可憐な女性って、僕のインスピレーションを掻きたてるんですよね」

口説いているような口調じゃない。明るく鳥居さんは言う。

「だから一緒に時間を過ごすことで、新しいデザインが浮かぶかと思って、あの時お誘いしたんです。でも、後にも先にもデートは無理そうですね。あなたのご主人はちょっと独占欲が強そうだ」

高晴さんが? 確かにあの時高晴さんは、私が他の男性と出かけるのは嫌だと言ってくれた。まだお互いの気持ちがわからなかった私たちの距離が、近づくきっかけになった。