お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】

「それでね、これをもらっちゃったの。今度の土曜、一緒に行かない?」

満を持して朗読劇のチケットを見せる。しかし、高晴さんは無表情のまま箸を置いた。

「それって雫ひとりがもらったの?」
「え、違うよ。先輩と私に。先輩は用事があって行けないからどうぞって」
「仕事相手に誘われるって、あまりいい印象がないな」

高晴さんは目を伏せて、低い声で言った。
もしかして鳥居さんの件を思いだしているのかな。確かにあの時は、プライベートな食事に誘われて困ったけれど、今回はそういうノリじゃないのに。

「関係者向けの招待席を融通してくれたんだ。たぶん、向こうも営業の一環だよ~。私が彼のファンだって先輩が言ったから、気を遣ってくれたのかも」
「ふうん」

高晴さんは暗い表情のまま。デートのお誘いのつもりなんだけど、気乗りしないのかな。

「食事がてら、出かけるのは駄目? 朗読劇なんてこんな機会がなければ一緒に行かないと思うし」
「……そうだね。わかったよ」

高晴さんは頷いたけれど、明らかに消極的な雰囲気だった。


うーん、そこってそんなにもやもやすることかなあ。翌日、オフィスで私は腕組みをしていた。
確かに私の推し声優さんからのお誘いだ。だけど仕事の延長だし、私としては高晴さんと一緒に楽しめる催しだと思っている。それなのに、高晴さんのあの暗い表情。

……もしかしてだけど、高晴さんは面白くないのだろうか。私が推し声優のイベントに行くことが。
そんなあ、今更? 私がオタクなのは高晴さんだって知ってるじゃない。今まで私の趣味を邪魔する気はないって何ひとつ嫉妬しなかったじゃない。私も、やましい気持ちがないから高晴さんを誘っているのに。

こうなると、年末のワイシャツに口紅&ファンデーション事件がじわじわと思いだされてくる。
高晴さんはもしかしたら、女の子のいるお店に行ったのかもしれない。そこで女の子と密着していたのかもしれない。
だけど、私は仕事の付き合いだと思ったから黙っていた。証拠の写真はスマホに残っちゃいるけれど、それを使って問い詰める気はこの先もない。高晴さんに愛されてるって自信があるから、つまらないことで怒らないと決めている。